=日本の領土紛争に直結する=南沙諸島の危機に対する日本の対応 磯和典

国民の殆どがマスコミなどを通じて周知してゐるとは思ふが、昨今の太平洋南沙諸島が中共(中華人民共和国)の軍事基地化がとてつもない勢ひで進んでゐる。
先日も某テレビのニユースでやつてゐたが、所謂岩礁でしかなかつたところが、埋め立てによつて拡大、なかには滑走路が出来てゐるところもある。最初中共は、中共の漁船が台風等によつて災害にあつたときに安全のためと云つて、なかには、二坪程度の小屋のやうな建物を作つた。
ところが、アメリカ軍が平成四年にフイリピンから撤退した後、ものすごい速さで、その岩礁群を埋め立てし、現在に至つては殆どの岩礁が埋め立て増加され、立派な要塞となつてゐる。これに関し、中共軍は、軍事基地として認めてゐる発言を最近してゐる。
今更ながら、簡単に南沙諸島の説明をさせて戴きたい。
南沙諸島…一〇〇以上のサンゴ礁や小島などからなる諸島で、一番大きな島でも 〇.四平方キロメートルしかない。この宝の山に初めに目をつけたのはご多聞にもれず我が国である。リン鉱石の発掘を目的に昭和十四年、新南群島として領有する。
しかし、大東亜戦争に敗れ、昭和二十六年、サンフランシスコ平和条約にて領有権を抛棄してしまう。領有を抛棄した際に次の持ち主をはつきり決めなかつたものだから今現在は紛争地域として各国がしのぎを削つて争つてゐる。
南沙(スプラトリー)諸島と呼ばれるサンゴ礁は、中華人民共和国、ベトナム、マレーシア、台湾、フィリピンなどの国境線が複雑に絡み合つてゐる。しかも埋蔵量二〇〇億トンとも言はれる大油田とガス田が発見された宝の山を、各国が領有しようと躍起になるのは無理もないこと。
しかも、南沙諸島は世界有数の海運ルートで、世界中の物資が通過する通商ルートでもある。南沙諸島は軍事的意味も大変大きいのである。
昭和四十五年末、ベトナムが南シナ海沖に油田を発見(バホー油田)、昭和四十九年には早速中共が南ベトナムに進軍し、西沙諸島を占拠。この場所は南沙諸島へ進出する重要拠点となり、要塞化される。昭和五十四年には、ベトナム本土へ人民解放軍が侵攻(中越戦争)アメリカさへ追ひ払つたベトナムが中共などに負けるはずもなく、人民解放軍はあえなく敗退する。昭和五十七年に国連海洋法条約が制定され、沿岸国に大幅な海洋資源の権利が認められるやうになつてから争ひは激化。他の沿岸国も領有権を主張するやうになつた。ベトナムと中共も競つて南沙諸島の小さな島々を一つ一つ占領していつた。まさに早い者勝ち状態である。
中共は南沙諸島の海域に複数の軍事施設を建設し、平成四年には一方的に南沙諸島の領有を宣言した。
台湾やフィリピンなども少数ながら島を領有し、中共船にフィリピン軍が威嚇射撃を行ふなど、中共の思ひ通りには行かない。
ASEAN(東南アジア諸国連合)会議にはアメリカが仲介役で登場し、中共をけん制するためにフイリピンやベトナムに軍事要請を申し出る。中共は当然猛反対する。フイリピン以外のASEAN諸国も地域内解決を主張してゐる。
元々この紛争はフイリピン駐留の米軍が撤退したことで力の空白が生じ、中共が増長したため起きたと考へられてをり、米軍が介入するのが、尤もこの地域の安定にとつて有効であらう。
昨年五月にフイリピン外務省は、中共が暗礁を埋め立ててゐると云ふことを示す時系列の写真を公開し、これによれば平成二十六年に入つてから大量の土砂を投入してゐると云ふことがうかがえる。同じ暗礁は、平成二十四年の時点では目立つたものはないが、建造物が確認でき、そして平成二十六年の時点ではすつかり埋め立てられてゐると云ふことが分かる。
フイリピン外務省は、この中共の行為をフイリピンの領域内で行はれてゐると云ふことから国際法に違反してゐると批判。フイリピン政府は平成二十六年五月にミヤンマーで開かれた、東南アジア諸国連合首脳会議の場で非公式にこの事に就いて問題提起をし、中共に対して抗議。中共側は、これは自国領で行つてゐることであり何を造ろうと中共の主権の範囲内と拒否した。
八月にはフイリピンは中共に対して、これは南沙諸島問題の平和的解決を目指す「南シナ海行動宣言」に違反してゐると抗議。埋め立てられたジヨンソン南礁に就いてベトナム側からは島ではないと指摘されてをり、これが岩礁ならば国際法では幾ら埋め立てても領海や排他的経済水域の根拠となる島とはならない。しかしながら中共は、同様の工事を複数の岩礁で進めてゐる。
平成二十六年十一月には、中共が南沙諸島の岩礁に滑走路などを備へた人工島を建設してゐると見られると報道された。アメリカはこれを受け、中共に対しては埋め立ての中止を求めて各国に対しては同様の手段を行はないやうに促した。だが中国人民解放軍少将はこれに対して正当な行為だと述べてアメリカに反論し、この問題にアメリカは口出しすべきでないとした。中共によればフイリピン、マレーシア、ベトナムは既に岩礁に軍事施設を建設済みであり、中共は国際社会の圧力に耐へ建設を続行するとした。
このやうな中共の暴挙を、日本は笑つてみてゐる場合ではない。尖閣諸島の件しかり、日本が尖閣諸島の警備警戒を怠ると、それこそ南沙諸島の二の舞になつてしまう可能性がある。五月にフイリピン大統領が日本に来訪したが、矢張り南沙諸島の件で協力が欲しいのだらう。フイリピンとしては当然のことである。日本は、フイリピンだけでなく、マレーシアやベトナム、インドネシアとも協力していくべきだ。そして、東南アジア諸国を味方につけ、中共は勿論韓国との紛争・外交に打ち勝たなければならない。それが、北方領土や竹島の奪還に繋がるのである。