二十四日午後、政府主催で 天皇陛下御在位三十年記念式典が国立劇場で催された。
御臨席あそばされた 天皇陛下は祝意に対し玉音を賜れた。
在位三十年に当たり、政府並びに国の内外から寄せられた祝意に対し、深く感謝いたします。
即位から三十年、こと多く過ぎた日々を振り返り、今日かうして国の内外の祝意に包まれ、このやうな日を迎へることを誠に感慨深く思ひます。
平成の三十年間、日本は国民の平和を希求する強い意志に支へられ、近現代に於て初めて戦争を経験せぬ時代を持ちましたが、それはまた、決して平坦な時代ではなく、多くの予想せぬ困難に直面した時代でもありました。世界は気候変動の周期に入り、我が国も多くの自然災害に襲はれ、また高齢化、少子化による人口構造の変化から、過去に経験のない多くの社会現象にも直面しました。島国として比較的恵まれた形で独自の文化を育ててきた我が国も、今、グローバル化する世界の中で、更に外に向かつて開かれ、その中で叡智を持つて自らの立場を確立し、誠意を持つて他国との関係を構築していくことが求められてゐるのではないかと思ひます。
天皇として即位して以来今日まで、日々国の安寧と人々の幸せを祈り、象徴としていかにあるべきかを考へつつ過ごしてきました。しかし憲法で定められた象徴としての天皇像を摸索する道は果てしなく遠く、これから先、私を継いでいく人たちが、次の時代、更に次の時代と象徴のあるべき姿を求め、先立つこの時代の象徴像を補ひ続けていつてくれることを願つてゐます。
天皇としてのこれまでの務めを、人々の助けを得て行ふことができたことは幸せなことでした。これまでの私の全ての仕事は、国の組織の同意と支持のもと、初めて行ひ得たものであり、私がこれまで果たすべき務めを果たしてこられたのは、その統合の象徴であることに、誇りと喜びを持つことのできるこの国の人々の存在と、過去から今に至る長い年月に、日本人がつくり上げてきた、この国の持つ民度のお陰でした。災害の相次いだこの三十年を通し、不幸にも被災の地で多くの悲しみに遭遇しながらも、健気に耐へ抜いてきた人々、そして被災地の哀しみを我が事とし、様々な形で寄り添ひ続けてきた全国の人々の姿は、私の在位中の忘れ難い記憶の一つです。
今日この機会に、日本が苦しみと悲しみのさ中にあつた時、少なからぬ関心を寄せられた諸外国の方々にも、お礼の気持ちを述べたく思ひます。数知れぬ多くの国や国際機関、また地域が、心のこもつた援助を与へてくださいました。心より深く感謝いたします。
平成が始まつて間もなく、皇后は感慨のこもつた一首の歌を記してゐます。
ともどもに平（たひ）らけき代（よ）を築かむと諸人（もろひと）のことば国うちに充（み）つ
平成は昭和天皇の崩御と共に、深い悲しみに沈む諒闇（りようあん）の中に歩みを始めました。そのやうな時でしたから、この歌にある「言葉」は、決して声高に語られたものではありませんでした。
しかしこの頃、全国各地より寄せられた「私たちも皇室と共に平和な日本をつくつていく」と云ふ静かな中にも決意に満ちた言葉を、私どもは今も大切に心にとどめてゐます。
在位三十年に当たり、今日このやうな式典を催してくださつた皆様に厚く感謝の意を表し、ここに改めて、我が国と世界の人々の安寧と幸せを祈ります。
天皇尊弥栄